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宇宙の晴れ上がり

高

よみ方

うちゅうのはれあがり

英 語

対応する英語なし

説 明

宇宙の晴れ上がりとは、ビッグバンによる宇宙誕生の約38万年後、赤方偏移にしてz = 1090の頃に、たとえて言えば、「濃い霧がかかったようになにも見えなかった状態から霧が晴れてくっきり景色が見える状態」へと宇宙の状態が変化したことを指す用語である。この用語は佐藤文隆氏の提案によるもので英語の定訳はない。英語ではこの時期を表す再結合期(recombination epoch)あるいはその原因となった光子脱結合(photon decoupling)などが用いられる。

ビッグバン直後の宇宙は超高温・高密度であったが、宇宙膨張とともに温度と密度が下がり約38万年後には温度は数1000度K(絶対温度)になっていた。その当時の宇宙に存在した原子はほとんどが水素とヘリウムであったが、それらはすべて電離して水素原子核(陽子)とヘリウム原子核と原子核に束縛されていない自由電子とからなるプラズマ状態にあった。このため光子は自由電子によってトムソン散乱を受け、まっすぐ進むことができなかった。これはちょうど霧や雲の中で光が散乱され直進できないことになぞらえられる。宇宙の温度が下がって5000度K程度になるとまずヘリウム原子核が2個の電子を捕獲しヘリウム原子となり、その後4000度K程度になると水素原子核が電子を捕獲し始める。これを電子の再結合という。再結合によって自由電子が減っていくことで光子は散乱される相手を失い物質の束縛から解放されていく。宇宙の温度が3000度K程度になった時点で自由電子はほとんど原子核に束縛される。これを電子と光子の脱結合といい、脱結合後の光子は直進できるようになる。こうして宇宙の晴れ上がりが起きる。宇宙の晴れ上がりは宇宙の再結合期とも呼ばれる。なお、「再結合」という言葉は、一般には中性の原子が電離で電子を失ったあとで再び電子を捕獲するプロセスに対して用いられる言葉であるが、ここではもともと電離状態にあった原子の初めての電子捕獲に対して用いられている。

宇宙にある多数の光子が電子から最後に散乱を受けるのは宇宙の歴史から見ればごく短い時間の間に一斉に起きるので、我々から見ればある時刻(距離)に対応する薄い球面である。これを最終散乱面という。宇宙マイクロ波背景放射は最終散乱面から我々に届いた放射である。そのためそこには宇宙の晴れ上がり時点の宇宙の物理状態(およびそこから我々までの間で光子が通過した宇宙空間)の情報が刻み込まれている。

脱結合後でも、電離度にすると1万分の1程度のわずかな自由電子が残っている。残った自由電子は始原ガス雲の重力収縮の際に冷却を担う水素分子をつくる触媒となり、始原星初代星)の生成に役立つことになる。

2024年01月29日更新

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    宇宙の進化における「宇宙の晴れ上がり」期のイメージ図。 以下のアルマ望遠鏡のサイトにある図に日本語ラベルを追記(岡村定矩)
    https://alma-telescope.jp/assets/uploads/sites/alma.mtk.nao.ac.jp/j/news/files/editor/20160617_fig1e.jpg